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緑星の仲間たち

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記事詳細

本の紹介(三たびの海峡)

「三たびの海峡」帚木蓬生(ははきぎほうせい)著、1992年4月刊行

 強制連行された韓国の元徴用工の物語である。小説ゆえの脚色はあるとはいえ、強制連行された彼らの過酷な生活は、おそらく本書に記されているようなものだったことがよく描かれている。
 昭和18年10月、彼は徴用にとられそうになった父親の身替わりになり、17歳で日本に渡った(彼にとってのはじめての海峡)。造船所で働くというふれこみだったが、連れて行かれたのは北九州の炭鉱。宿舎では3坪の部屋に5人が入れられ、汚れた布団は掛敷1枚ずつの3組しかない。2交代勤務だから全員の分は不要とされた。炭鉱での生活は過酷であり、ガス突出、落盤、トロッコの暴走で朝鮮人も日本人も死んでいくが、私刑で殺されるのは朝鮮人ばかり。逃亡を試みて失敗すれば、ムチや棍棒で死ぬほど殴られる。彼は1年2ヶ月ここで耐え、決死の脱走に運良く成功する。その後、港湾荷役人夫として過ごし、炭鉱で女人夫として働いていた日本人女性と結婚し、男の子が生まれる。敗戦後、漁船に乗り込んで妻子と共に帰国する(彼にとってのふたたびの海峡)が、妻の親が韓国までやってきて妻子を日本に連れ帰ってしまう。
 45年後、釜山で三軒のスーパーマーケットを経営し、実業家として成功した彼のもとに、在日の旧友から手紙が届く。廃山になった炭鉱を整理して企業を誘致する計画があることが告げられ、それを主導しているのは今は市長になっている元の炭鉱の管理者だという。それを期に、彼は45年ぶりに海峡を渡るのである(彼にとっての三たびの海峡)。その動機を彼は次のように独白する。日本の戦後責任、侵略したアジア諸国にこれからどう向き合っていくべきなのかが問われている。今日の私たちの問題である。
 「ドイツが事あるごとに自らの非を悔い改め、絶えず歴史を掘り返しているのとは対照的に、日本は自分の行為に目をつぶり、他国を蹂躙した足跡を忘却で埋めようとしている。漢民族に、〈退歩した劣等民族〉という烙印を捺し、武力侵害と経済的搾取と用意周到に進めていった日本。統監府や朝鮮総督府を根城にして、民族の抵抗に暴圧を加え続けた日本。三千年の歴史だけでなく、固有の言葉と文字を奪い取り、父祖代々の姓名までも改変させた日本。・・・・〈水に流す〉という表現は朝鮮語にもあるが、少なくともこれは害を被った側が発する言葉で、加害者は口にすべきではない。・・・・私たちは未来から学ぶことはできない。学ぶ材料は過去の歴史のなかにしかない。歴史は、批判的に眺めれば眺めるほど、輝きを増す。自分に都合のよいように、粉飾したり改変を加えた歴史からは、つかの間のつじつま合わせしか生まれてこない。たとえそれがいかに心地よいものであっても、長続きはせず、いつかしっぺ返しが訪れるのだ。私は日本にそういう道を歩んでもらいたくはない。できることなら、死者のうえに築かれた歴史を抹殺から守り、彼らの悲痛な叫びをありのままに私たちの耳に届かせてやりたい。」

三たびの海峡.jpg
 本書のテーマである韓国の元徴用工について、2018年10月、韓国大法院(日本の最高裁判所に該当)は、戦時中の元徴用工が新日鉄住金を相手に損害賠償を求めた裁判で、同社に対し1人当たり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じ、判決が確定した。
 元徴用工は、僅かばかりの賃金が支払われたとはいえ、提供される食事も僅かで粗末、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰を加えられるなど極めて劣悪な環境に置かれていた。これは強制労働や奴隷制に当たるものであり、重大な人権侵害であった。過酷で危険な労働を強い、劣悪な環境に置いた新日鉄住金はもとより、朝鮮半島を植民地とし、戦時体制下における労働力確保のため、官斡旋方式による斡旋や、国民徴用令による徴用を実施した日本国の賠償責任も当然に問題となる。
 本判決に対し、安倍首相は、2018年10月30日の衆議院本会議において、元徴用工の個人賠償請求権は日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決している。」とした上で、本判決は「国際法に照らしてあり得ない判断」であり、「毅然として対応していく」と答弁した。現在では、「毅然とした対応」として、半導体製造材料の輸出規制が問題となっている。
 では、元徴用工の損害賠償請求権は、安倍首相がいうように日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決」しているのだろうか?。
 韓国大法院の判決は、「原告らの損害賠償請求権は、『日本政府の韓半島に対する不法的な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権』であって日韓請求権協定の適用対象に含まれない」とする。
  一方、日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係について、外交保護権(後註)は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示している(最高裁2007年4月27日判決)。この解釈によれば、実体的請求権は消滅していないのであるから、新日鉄住金が任意かつ自発的に賠償金を支払うことは法的に可能であり、日韓請求権協定は法的障害にはならない。
 日本政府も、従来から日韓請求権協定により放棄されたのは外交保護権であり、個人の賠償請求権は消滅していないとの見解を表明している(1992年3月9日衆議院予算委員会における柳井俊二条約局長答弁、同年4月7日衆議院内閣委員会における加藤紘一外務大臣答弁)。
 重大な人権侵害に対する被害者個人の損害賠償請求権について、国家間の合意により被害者の同意なく一方的に消滅させることはできないという考え方を示した例は国際的にもあり(例えば、イタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民虐殺に関するイタリア最高裁判所判決など)、特異なものではない。
 日本国内でも、中国人強制連行事件である花岡事件、西松事件、三菱マテリアル事件など、訴訟を契機に日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、企業が資金を拠出して基金を設立し、被害者全体の救済を図ることで問題を解決した例もある。
 日本政府は、新日鉄住金をはじめとする企業の任意かつ自発的な解決に向けての取り組みに対し、日韓請求権協定を持ち出してそれを抑制するのではなく、自らの責任を自覚した上で、真の解決に向けた取り組みをすべきである。

(後註)外交保護権:ある国家の国籍を有する私人が他国の国際法違反行為によって損害を受けた場合に、国籍国が国際違法行為を行った国に対して国家責任を追及する国際法上の権限(ウィキペディア)。

【2019年8月10日】