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緑星の仲間たち

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記事詳細

本の紹介(「星をかすめる風」)

「星をかすめる風」イ・ジョンミョン著、鴨良子訳 論創社 2018年12月25日初版

 韓国の国民的詩人である尹東柱(ユン・ドンジュ)をモチーフとした作品である。

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 尹東柱は、1917年、現在の中国東北部龍井で出生、中学生頃から詩作をし、ソウルの延世大学文学部に進学、1942年には日本の立教大学文学部に留学、後に転学した同志社大学在学中の1943年7月、日本の朝鮮政策を非難したり、他の朝鮮人留学生に対して朝鮮独立を訴えたり、朝鮮語で詩を書くことにより、民族運動を煽動したとして治安維持法違反の罪で逮捕される。1944年2月に懲役2年の実刑判決が言い渡され、福岡刑務所に収監、1945年2月16日に原因不明の死因により獄死している。キリスト教徒でもあった。彼の死後、1948年には遺稿31篇を集めた詩集「空と風と星と詩」が刊行され、日本でも1984年に影書房から全詩集「空と風と星と詩」が出版されている。

 2012年に出版された本作品は韓国でベストセラーになり、日本を含め12カ国で出版、2017年にはイタリアのバンカレッラ文学賞(1952年の第1回受賞作品はヘミングウェイの「老人と海」)を受賞した。

 物語は、17歳で召集されて福岡刑務所に配属された看守兵渡辺の目を通して描かれている。刑務所の看守杉山は、暴力的な看守として日本人の同僚看守からも恐れられ、不穏な文書を摘発し焼燬する残忍な検閲官でもあった。彼は囚人たちの葉書を代筆する尹東柱の文章と詩を検閲していたが、その杉山が何者かによって殺害される。その背景には、関東軍補給部隊を奇襲して盗み出した金塊のありかを知る囚人を脱獄させ、金塊を入手しようと脱獄に手を貸す刑務所所長と、看守の任務として脱獄を防ごうとする杉山の対立があった。その頃、福岡刑務所では、九州帝国大学医学部によって、医務措置として囚人に対する生体実験が行われていた。暴力看守と恐れられてきた杉山は、実は医務措置対象者に選ばれた囚人たちの額を殴り傷つけることで彼らを対象者から外し、保護していたのだ。生体実験の資料は、敗戦と同時に全て焼却されてしまう。しかし、戦犯容疑者として福岡戦犯収容所に収容された看守兵渡辺は1年間かけて膨大な記録を作成し、生体実験が暴かれることになる。

 作品のエピローグに描かれている戦犯調査者と被調査者渡辺の会話。

調査者:なぜ誰にも言わず、知られたくないことについて書いたのですか?

渡辺: 誰かはそれを知るべきだからです。記録されない歴史は無で、そのうえ、嘘になることもあるからです。忘れなければ振り返ってみることができ、振り返ってみてこそ過ちを探せます。過ちを探せたら間違いを認め、間違いを認めたら許しを乞うことができ、許しを乞うと許されて、許されてこそ新しく出発できるからです。

調査者:あなたの記録は日本人には恥ずかしい歴史になるかもしれません。

渡辺 :恥ずかしい真実もまた真実です。誇らしい嘘より、恥ずかしい真実を認めた時、私たちは本当の自由を得ることができるのです。

調査者:あなたは自らを無罪だと思いますか?

渡辺 :いいえ、私は有罪です。私の罪は、何もしなかった罪です。

調査者:犯罪は分勝手にある行為を実行することで成立します。何もしなかったことがどうして罪になりますか?

渡辺 :私は戦争の狂気に沈黙し、罪のない者たちの悲鳴に耳を塞ぎました。穢らわしい戦争を止めることもできず、人々が死んでいくことを防ぐこともできませんでした。

調査者:あなたは戦時下の軍人として上官の命令に従っただけで、直接人を殺した記録もありません。

渡辺 :私が人を殺さなかったということが、たくさんの人々が死んでいったといいう事実を変えることはできません。残忍な時代を生き残ったということだけでも私は有罪です。

【2019年11月 4日】